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​農家収益向上効果の算出

| ​取組概要

肥料費削減、単位面積当たり収量の向上、タンパク値別収穫による販売額の向上及び上述効果を包含し、農家収益20%の向上を目指す。

| ​達成状況

・実証項目1 【機械経費負担に関する協議】より①個人導入機械費、③シェアリング想定利用面積での機械費・輸送清掃委託費の機械費を利用し、(a)慣行、(b)個人でのスマート農機導入、(c)スマート農機シェアリングでの農家収益の比較を行った。

 ・シェアリング想定利用における輸送清掃委託費は、スマート農機利用面積にて按分し、各生産者の賃借料に加算している。

・実証項目2 で得られた【ロボットトラクタ】、【自動アシストコンバイン】、【UAV防除】、【可変散布】の結果を労働費、資材費に反映し試算を行った。

・対象作物は水稲、小麦、大豆であるが、生産者によっては作付していない作物もあるため経営データがあるものについて試算を行った。

 

・各生産者において、(a)慣行と(b)個人でのスマート農機導入での収益は、平均43.9%減少、(c)スマート農機シェアリングとでは収益が112%の増加となる。

・(b)個人でのスマート農機導入では利用面積が限られる自動アシストコンバイン(自脱型)の導入費用が大きく影響しており、シェアリング利用での効果が高いことが分かった。

​各生産者収益向上比較一覧

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​水稲作における農家収益向上比較表(円/10a)

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​秋小麦作における農家収益向上比較表(円/10a)

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​大豆作における農家収益向上比較表(円/10a)

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| ​次年度の計画案

・実証項目1、2で得られる機械経費負担増、生産費変化、収量・品質変化から、農家収益変化量を算出し、経営評価を行う。

・可変散布、タンパク値マップ作成の実施については、本年度は機器導入の遅れもあり、データが少ないため、次年度では、多くのデータが取れるようスケジュールの検討を行う。

| ​2024年度達成状況

【ドローン画像および衛星画像を用いたタンパク含有率推定】

・近赤外バンドを持つドローン搭載センサの画像および衛星画像を用いて水稲子実のタンパク含有率を推定した結果について示す。

・マルチコプター機およびVTOL機に搭載した近赤外センサ MicaSense社のRedEdge-Pを用いてデータを取得した。RedEdge-Pは可視・近赤外に計5つのバンドを保有する。

・撮影前後に撮影した標準反射板のデータを用いて反射率に変換された画像を用いて反射率を推定した。

・反射率オルソモザイク画像の作成にはPix4D社のPix4Dmapperを使用した。使用した画像の一例を次に示す。

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図 2-17 8/15に沼田町にて撮影したVTOL機RedEdge-Pデータから作成したオルソ・モザイク画像

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図2-18 8/29に当別町にて撮影されたマルチコプター機画像の一例

・米国Planet Labs社が開発・運用する衛星SuperDOVEにより取得されたデータを使用した。同社から大気補正済み、幾何補正済みの画像を入手した。

・収量コンバインにより自動で取得されたタンパク含有率マップを用いて分析を行った。沼田町、深川市ではVTOL画像が多数取得されており、本地域を主な分析対象とした。一方で、当別町では、8月にVTOLによる撮影は行われていないため分析の対象外とした。

・反射率に変換したドローン画像、衛星画像から植生指数を算出し、タンパク含有率マップと回帰分析を行うことで推定を試みた。

 ・ドローン画像は、6月から9月初旬までの様々な時期に撮影されているが、マルチコプター機(DJI Inspire2)により出穂期で積算温度1700℃程度の時期に撮影された画像では比較的良好な正の相関が得られた。その結果の一例を次に示す。これは、8/15に撮影されたデータを用いた結果である。一方で同地域で8/1に撮影された画像では有意な相関が得られなかった。

 

 ・衛星画像としてSentinel2およびPlane社のDOVE衛星の両方を検索し、残念ながら同一シーンで沼田町、深川市の圃場をカバーしている雲なしの画像を得ることはできなかった。そのため、8月中旬の2日間に撮影されたPlane社のDOVE衛星画像をモザイクし分析を行った。その結果を次に示す。8/15のVTOL画像と同様に比較的良好な正の相関が得られた。サンプル数はN=125で同一ながら相関係数はやや衛星画像の方が高い。またNDVIのレンジは衛星画像の方がやや低くなっている。

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図2-19 出穂期に撮影されたドローン画像のNDVIとタンパク含有率(p)の相関分析

沼田町の3圃場を分析対象とした(桝田農場、阿波農園)

N=125、p=10.4 x NDVI -1.68、R=0.42

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図2-20 出穂期に撮影された衛星画像のNDVIとタンパク含有率(p)の相関分析

    沼田町の3圃場を分析対象とした(桝田農場、阿波農園)

N=125、p=20.8 x NDVI -8.76、R=0.56

・リモートセンシングデータを用いたタンパク含有量の推定について、既往研究と整合性のある結果が得られた。これはドローンによる撮影方法、反射率推定方法に問題がないことを示唆している。衛星画像では雲なしの画像を得ることが難しい場合があるが、広域を短時間で撮影可能なVTOL機による画像取得は有効な手段と考える。

 

・今後以下の3点の分析が必要と考える。一つ目は、圃場内のタンパク含有量のばらつきについて精緻に分析する必要がある。二つ目は、VTOL機と回転翼機に搭載されたRedEdge-Pデータから算出された反射率データについて差異が見られた。その原因を分析する必要がある。三つ目はP4 Multispectralについてである。今回の分析ではP4 Multispectralを使用した分析では良い相関を得ることができなかった。その原因について分析する必要がある。

【タンパク値別刈取による収益試算】

・桝田農場、阿波農園の水稲圃場のUAV及び衛星画像から算出したタンパク値マップを図に示す。

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図2-21 UAV:8/15撮影(左)と衛星:8/19撮影(右)画像データから算出したタンパク値マップ(桝田農場)

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図2-22 UAV:8/15撮影(左)と衛星:8/12撮影(右)画像データから算出したタンパク値マップ(阿波農園)

・ななつぼし品種における概算払金額とタンパク含有率による販売価格の差額については、表2-16に示す。

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表2-16 ななつぼしのタンパク値基準別販売金額(沼田町事例)

各圃場をタンパク値基準で色分けしたタンパク値マップは、図2-23、図2-24となる。

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図2-23 タンパク値基準で色分けした衛星(左)とUAV(右)画像のタンパク値マップ(桝田農場)

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図2-24 タンパク値基準で色分けした衛星(上)とUAV(下)画像のタンパク値マップ(阿波農園)

・含有タンパク値基準を用いて、タンパク値マップのピクセル度数分布を求め、各タンパク値基準の面積割合を算出した。なおUAV画像の1ピクセルの面積は0.01a、衛星画像の1ピクセルの面積は0.09aとなる。

・算出した面積割合に圃場毎の収量を乗算し、各タンパク値基準別の収量と販売金額を試算した。

表2-17 UAVと衛星画像データから算出したタンパク値基準別販売金額(桝田農場圃場15)

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表2-18 UAVと衛星画像データから算出したタンパク値基準別販売金額(桝田農場圃場16)

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表2-19 UAVと衛星画像データから算出したタンパク値基準別販売金額(阿波農園圃場22)

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表2-20 UAVと衛星画像データから算出したタンパク値基準別販売金額(阿波農園圃場23)

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・圃場内の平均タンパク値は、各タンパク値基準上限値と面積割合の加重平均から算出した。

・圃場内平均タンパク値から、平均販売金額を算出し、タンパク値別収穫による販売金額との差額を試算した。

・試算結果から、桝田農場では最大1,841円/10a、阿波農園で最大2,502円/10aの販売金額向上となった。

表2-21 UAVと衛星画像データから算出したタンパク値基準別販売金額比較(桝田農場)

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表2-22 UAVと衛星画像データから算出したタンパク値基準別販売金額比較(阿波農園)

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【生産者収益向上試算について】

・実証項目1.表2-4での機械費・輸送清掃費の経費を利用し、(a)慣行、(b)個人でのスマート農機導入、(c)スマート農機シェアリングの3つパターンでの農家収益の比較を行った。

 

・シェアリング利用における輸送清掃委託費は、スマート農機利用面積にて按分し、各生産者の賃借料に加算している。

(再掲)表2-4 シェアリング利用対象面積での機械費・輸送清掃費用と個人導入費用の減少割合

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・(a)慣行においては、現状の減価償却費の内訳が不明 (償却済みで購入金額が分からない、中古での購入など)であることから、スマート農機(ロボトラ、自動アシストコンバイン、UAV)と同一作業を行う農機(トラクタ、コンバイン、ビークル)を新規で購入したとして加算した。(表2-23)。

・実証項目2.で得られた【ロボットトラクタ】、【自動アシストコンバイン】、【UAV防除】、【可変散布】の結果を労働費、資材費に反映し試算を行った(表1-3)。

表2-23 スマート農機に対応する新規購入農機

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再掲)表1-3 スマート農機導入効果実績

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・対象作物は、本年度実証でのシェアリングスケジュールから水稲(桝田農場、原農場、阿波農園)、小麦(中村協進農場、林農園)、大豆(藤原雅史、大塚農場)とした。

・(c)スマート農機シェアリングにて利用する農機と利用経費については表2-24に示す。

・(a)慣行では、スマート農機と同一作業を行う農機の導入費用と(b)個人でのスマート農機導入による機械費を加算している。

表2-24 スマート農機シェアリングにおける農機利用作物と利用経費及び慣行、スマート農機個人導入機械費

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・対象作物は、本年度実証でのシェアリングスケジュールから水稲(桝田農場、原農場、阿波農園)、小麦(中村協進農場、林農園)、大豆(藤原雅史、大塚農場)とした。

・各生産者において、(a)慣行と(b)個人でのスマート農機導入での収益は平均で17.3%減少、(c)スマート農機シェアリングとでは収益が平均93.2%の増加となった。

・阿波農園においては、自脱型コンバインの機械費を水稲作付面積のみで、賄っているため10aあたりにかかる金額が大きく、シェアリング利用による機械費の負担が大きく減っているため

・原農場においては、(a)慣行での利益が少額となっていたため、シェアリング利用による機械費の削減が利益へ大きく影響している。

・林農園では、小麦面積に対しての汎用型コンバインの導入費用負担が大きく、シェアリング利用によって費用負担が大きく減ったため、比較での割合が大きくなっている。

・大塚農場では、個人導入で利用する面積が、設定したシェアリング利用対応面積よりも大きく、機械費の負担が増加する結果となった。

(再掲)表1-4 各生産者収益向上比較一覧

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表2-25 桝田農場 水稲移植における収益向上比較

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表2-26 阿波農園 水稲移植における収益向上比較

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表2-27 原農場 水稲移植における収益向上比較

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表2-28 中村協進農場 秋小麦における収益向上比較

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表2-29 林農園 春小麦における収益向上比較

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表2-30 藤原雅史 大豆における収益向上比較

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表2-31 大塚農場 大豆における収益向上比較

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| ​その他報告事項

・個人での農機導入では、稼働量が限定されるコンバインの導入費用が大きく影響しており、シェアリング利用による利用面積拡大が機械費の削減に効果が高いことが分かった。

| ​今後の課題

・利用頻度が高い農機については、大規模経営において、シェアリング利用による機械費削減効果が低くなる(汎用型のコンバインは水稲、小麦、大豆など多品目での利用が可能で大規模経営においては、利用面積が拡大するため)。

・大規模農家がスマート農機を導入し、周辺の小規模農家とシェアリングして、使用料を払って小規模農家が農機を利用したり、繁忙期に小規模農家がシェアリングする機械で、大規模農家から作業を受託するなど相互関係に合わせたシェアリング利用の方法を検討する必要がある。

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